エヌビディア、自動運転技術でのテスラCEO発言に忠告

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イーロン・マスク氏(Elon Musk)による自社新車載コンピューターの説明で、誤った発言をしないようにと釘を刺す

米エヌビディア本社は米国西部時間4月23日、その前日の22日にテスラのイーロン・マスク氏が自社投資家向けイベント「Tesla Autonomy Day」で語った新車載コンピューターのスペック説明に関して、あまり誤った発言をしないようにと釘を刺した。そのテスラ社による発言とは…。(坂上 賢治)

1.テスラは、他のすべての自動車メーカーの水準を引き上げる。

2.テスラの自動運転車には、同社の新しいAIチップのうちの2つを活用したコンピューターが搭載され、そのそれぞれにCPU、GPU及びディープラーニングアクセラレーターが実装される。

この新たな車載コンピューターは毎秒144兆回 (144 Trillion Operations Per Second=TOPS) の演算能力を持ち、サラウンドカメラやレーダー、超音波機器からデータを収集しディープ ・ニューラルネットワークを介してアルゴリズムを実行する。

3.但し例え144TOPSの演算能力があっても、自動運転車にとって、その演算能力は決して充分なものとは言えないため、テスラでは次世代チップの開発に取り組んでいるとも述べた。

以上の要約内容を挙げたエヌビディアは、「テスラ社がより完成された自動運転車の実現に対して、圧倒的な性能を持ったコンピューターが必要であると繰り返し述べてきた発言について、我々はそのビジョンを長きにわたって支持してきました。

それは当社が数年前に『NVIDIA Xavier SoC』の設計構築を行った動機はそこに繫がっているためです。

我々のXavierプロセッサには、プログラム可能なCPU、GPU及びディープラーニングアクセラレーターが実装されており、都合30TOPSの演算能力が備わっています。

また当社は、2つのチップソリューションをベースとした新たな車載コンピューターである『DRIVE AGX Pegasus』を作り、先のXavierをよりパワフルなGPUと組み合わせることで160 TOPSの演算能力を実現しました。

加えて『DRIVE AGX Pegasus』にそれらを2セット搭載することで、演算能力を合計320TOPSにしました。しかしこれらは既に1年前の話です。

我々は常に状況を傍観しているわけではないのです。当社からは次世代プロセッサの『Orin』が早晩登場します」と冷静に自らの技術的優位性について語っている。

つまり今回、テスラが自社の投資家向けイベント「Tesla Autonomy Day」に於いて、マスク氏自身がエヌビディアの過去の技術を比較対象に取り上げ、自社技術の優位性をアピールしているのには、そうでもしないと自社の優位性を投資家に向けて保つことが出来ないのだろうと語っているのである。

またエヌビディアは「自動運転を目指す車載コンピューターは1秒当たり数兆回の演算能力を実現する必要があります。

このような問題に取り組んでいるのは、テスラ社を除けばエヌビディアだけなのです」とテスラ社を暗に持ち上げつつも、その見解の正確性には無理があるとさらにグギを刺した。

エヌビディアは「自動運転車の技術革新には、スーパーコンピュータークラスのシステムが必要であるというマスク氏の構想には同意します。

しかしテスラ社の今回の投資家向けイベント上のプレゼンテーションは、いくつか不正確な点があり、それを修正する必要があります」と続けている。

エヌビディアによると「テスラ社の2チップ型Full Self Drivingコンピューター (FSDC)の性能を当社のシングルチップのドライバー支援システムと比較するのは、あまり適切ではありません。

144TOPの演算能力を持つ、テスラ社の2チップ型FSDCの比較対象とすべきは、320TOPSの演算能力とAIによる知覚・位置推定と経路計画を可能にする『NVIDIA DRIVE AGX Pegasusコンピューター』であるべきです。

またXavierは、もともと30TOPSの処理能力を持っているのですが、テスラ社は、その処理能力が21TOPSだと誤った声明を出しています。

さらに我々の単一のXavierプロセッサを搭載したシステムは、完全自動運転ではなく、運転支援のAutoPilotを想定して設計されています。テスラ社が主張するように自動運転には、それよりはるか高い演算能力が必要となるのです。

そんなテスラ社の発言ですが、昨今の重大な問題に対しては正しい認識を持っているように受け取っています。

それは自動運転車が、新しい次元の安全性や効率性、便利さを生み出すために不可欠なものであり、業界の未来であるという点です。

もちろん、そのためには、極めて高い演算性能を持つ車載コンピューターが必要となります。テスラ社は、それが業界の未来にとって重要であると考えており、同社の未来もそこに懸かっています。

なぜならこれ如何よって、自らの事業の将来が大きく左右されるからです。他のすべての自動車メーカーも、このレベルの性能を実現しなければならなくなるでしょう。

しかも、このようなAIコンピューティングのパワーを得られるところは今のところエヌビディアとテスラ社しかありません。そして業界が活用できるオープンなプラットフォームを提供しているのは、そのうちの1社しかないのです」と結んでいる。

ちなみにマスク氏は、自車の運転支援システムの改善を繰り返し、最終的に完全自動運転の実現を目指すとしているが、例え現段階の発表技術を今日から機能させたとしても確かに高度ではあるが、厳密には同社が自身で「オートパイロット」と呼ぶ搭載機能を一部レベル3に近づけた最先端の運転支援システムに過ぎない。

ただそれを今の段階で生産ラインでの機能拡充を行えば、すぐさま搭載可能(マスク氏よると実際には2年先に実現するとしている)としたところは、仮に話半分としても賞賛に値する。そのようなクルマ造りが可能と発言した自動車メーカーは、世界でも今はテスラ社しか存在しないからだ。

なお今後、車載コンピューターの高性能化は両社が述べるように、完全自動運転車実現にマストな課題だ。今後、世界最高峰の車載コンピューターが、そのうち相次いで登場してくることだろう。

ただその勝者である最新鋭システムは、より高度な演算能力を備えつつ、効率的な電力消費量も求められる。というのは幾ら高性能であったとても、搭載バッテリーの電力を浪費するものであってはならないからだ。

併せて可能であるなら、高い下位互換性も求めたい。今回のテスラ社による車載チップは、現段階でのマスク氏の発言を踏まえると下位互換であるとのことだが、いずれにしても可能な限りの高い互換性は、長期間に於いて使用される自動車という製品上とても大切なことである。

いずれにしても両社の車載コンピューターの勝者争いは、実に興味深い話題ではある。しかし昨今の無意味な交通事故が散発する今の自動車社会の状況を踏まえると、世界最高性能のシステムが本当に現実の車両に搭載される日がやってくるのを誰もが心待ちにしている。