2017年・FIA世界耐久選手権プレビュー、ハットトリックを狙うポルシェ919ハイブリッド

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ドイツ. ポルシェAG(本社:ドイツ、シュトゥットガルト 社長:オリバー・ブルーメ)は、3月31日にモンツァ・サーキットでニュー919ハイブリッドを公開し、ロイヤルパークでのワールドプレミアを祝った。

この席上で発表された今シーズン用のル・マン・プロトタイプは、およそ900PS(662kW)のシステム総合出力を発生。

ポルシェはこのマシンでル・マン24時間レース(6月17-18日)の優勝、そしてFIA世界耐久選手権のマニュファクチュアラー部門タイトルとドライバー部門タイトルで2015年と2016年に続く3連覇というハットトリックの達成に狙いを定めている。

LMP1担当副社長であるフリッツ・エンツィンガー氏は、「大きな敬意をもってシーズンに臨みます。耐久レースの9戦は毎回が挑戦で、なにより信頼性が最も重要な要素となります。

カテゴリーの違う多数の車が各々のレベルでの速度で走る中を6時間運転し続けるレースは予測不能です。

そしてわずか数秒が最終的な勝者を決めます。他のレースの4倍の長さのル・マンがシリーズの頂点を飾り、この24時間レースは人とマシンを極限に追い込みます。

2017年シーズンのLMP1トップカテゴリーではトヨタがライバルです。私達は綿密に強化されたポルシェ919ハイブリッドと6名のトップクラスのドライバーとともに彼らに立ち向かいます」と述べた。

ル・マン・プロトタイプのテクノロジー

ポルシェ919ハイブリッドの2017年モデルは、特に車両のエアロダイナミクス、シャシー、およびエンジンにおいてさまざまな新しいイノベーションが展開されている。

チーム監督のアンドレアス・ザイドル氏は、テクニカルディレクター代理として「2017年シーズンのために車の60-70%が新開発されました。

919ハイブリッドの基本コンセプトは最も小さい部分から最適化を図って効率性をさらに高めることにあります。

モノコックは2016年から変更されていませんが、他の全てのコンポーネントは最適化の可能性を分析した上で多くが変更されました。F1同様に、モノコックはサンドイッチ構造のカーボンファイバー複合材料で製造されています」とその仕様について語っている。

919ハイブリッドのエアロダイナミクス

2017年FIA 世界耐久選手権(WEC)の技術規定では、エアロダイナミクスに影響するボディコンポーネントの寸法に制限が導入されている。

安全性を改善するために、新しい寸法はLMP1プロトタイプのダウンフォースを削減して車両のコーナリングスピードを抑制した。

ポルシェのエンジニアは、新しいスペックと開発成果に基づいて、919ハイブリッドに2つの新しいエアロダイナミクスパッケージを考案。もちろん、規定条件によるラップタイムの増加を補うことが目的としたものだ。

ポルシェは、2016年シーズンのために3つのエアロダイナミクスパッケージを用意したが、新規定ではこの数も制限される。

先のアンドレアス・ザイドル氏は、「1シーズンに2つのエアロダイナミクスパッケージに制限することは経費管理としては理に適っています。

新しいエアロダイナミクスパッケージのひとつはル・マンのような高速サーキットのために特別に設計されているのです。

パッケージの設計は、非常に長いストレートセクションで最高速度に達するために空気抵抗を最小に抑えることに焦点を合わせています。

また2つめのエアロダイナミクスパッケージは、多くのコーナーを備えたサーキットのためにダウンフォースを高めて高レベルの空気抵抗を補正します。

サーキット専用のファインチューニングは認められていますが、2017年のパッケージは昨年の3つのエアロダイナミクスパッケージに比べると全般的に大きな妥協を余儀なくされています」と話す。

新型マシンを仕上げるため、エンジニアたちは空力的な変動を抑えるべく車両のフロントエンドの設計に注力した。

これについてアンドレアス・ザイドル氏は、「2016年モデルのフロントエンドには、サーキット表面の擦れたラバーが若干蓄積しました。

このラバーが車のバランスを崩しました。私達はこの現象を分析してボディコンポーネントを最適化しました。

今年の919のフロントビューと昨年のモデルを比べると、まず目を引くのが高さのあるワイドで長いホイールアーチです。

サイドには、ラジエーターのために再設計されたリアエアインテークとともにモノコックからホイールアーチへと続く新しいチャンネルが見えます。

これらの仕様の吟味・刷新と、新規定によるエアロダイナミクスの低減の結果、ル・マンのラップタイムが3、4秒低下することが予想されます。

私達が実施したさまざまな強化がどうようにこの損失を補うかを見守る必要があります」と説明する。

強化対策として効率性と性能を高めたドライブシステム

ポルシェのエンジニアは、強化対策パッケージの一環として、ドライブトレインの効率性と性能を高めた。

具体的には、フロントとリアアクスルのトランスミッション、エンジン、電気モーター、およびエネルギー回生システムの全てが最適化されているが、ドライブシステムの基本原理自体に変更はない。

また919のリアアクスルは、非常にコンパクトな2リッターV4エンジンによって駆動される。

ライトサイジングしたターボテクノロジーと最も効率的なダイレクト・フューエル・インジェクションを兼ね備えたエンジンは、約500PS(368kW)の最高出力を発生するポルシェ史上最も効率的なエンジンとなった。

併せてフロントアクスルの制動エネルギー回生システムとエグゾースト回生システムの2つのエネルギー回生システムがリチウムイオンバッテリーを充電し、電気モーターは必要に応じてフロントアクスルに400PS(294kW)を超える出力を供給することができる。

加えてヴァイザッハで開発された919ハイブリッドは、制動中と同様に加速中にもエネルギーを回生する唯一のプロトタイプで900PS(662kW)以上のシステム合計出力を発生する。

コーナー出口の加速時にはフロントアクスルに400PSの出力を追加し、莫大なトラクションを生み出して919を4WDに変換していく。

走行中の回生エネルギーの約60%は、フロントブレーキのKERS(運動エネルギー回生システム)から発生し、残りの40%はエグゾーストエネルギー回生システムから発生する。そしてフロントアクスルから回生された平均80%の制動エネルギーは直ちに駆動エネルギーに変換される。

このエレクトリックパワーを供給するためにエンジンを使用すると、100PS(74kW)を超える出力を供給する必要がある。

これは919の燃費を20%以上改善し、ル・マンにおいてラップあたり1リッターの燃料に匹敵する。高効率回生システムのさらなるメリットは、小型軽量のブレーキの装着が可能になり、軽量化だけでなく、必要なクーリングエアを減らして空気抵抗を低減させていく。

高効率の鍵となるエグゾーストエネルギーを回生するため、小型タービンがエグゾーストパイプに装着されている。

このタービンは120,000rpm以上で回転し、ジェネレーターに電力を供給。フロントブレーキの回生エネルギーと同様に、発生したエネルギーは、必要になるまでリチウムイオンバッテリーに保存される仕組みだ。

ドライバーはスイッチを押して、必要に応じてこの保存されたエネルギーをコーナー出口の加速に使用することができる。

同時に、加速時に発生する排気ガスからエネルギーが補充され、排気圧の低い低回転域でも効率的にタービンを機能させるために、タービンには可変タービンジオメトリーが備わる。

このような高度なテクノロジーを搭載しているにもかかわらず、エンジニアリングチームはエグゾーストシステムの軽量化も達成した。

アンドレアス・ザイドル氏は、「シャシーとボディのエレメントからパワートレインのアップデートに至るまで革新的な新しいテクノロジーを追加しても、車両重量が昨年を超えないことが私達の目標でした。

結果、919は再び規定に定められた最高のエネルギー効率クラスからスタートします。

つまり、13.629km(8.4マイル)のル・マンサーキットにおいて8MJの回生エネルギーの使用が可能で、燃料消費量は1周あたり最高4.31リッターに制限されます。

レースでは、ラップごとに回生エネルギーおよび燃料の消費値が厳密にモニターされることになります」と語る。

ドライビングクォリティーとタイヤ

シャシーに実施されたメカニカルな強化とともに、特にトラクションコントロールとハイブリッドマネージメントについての多数のソフトウェアイノベーションが919のドライビングクォリティーをさらに改善している。

両方の要因がタイヤの寿命を大幅に伸ばし、2017年にはこれがさらに重要性を増す。

LMP1チームの各レースと車に用意できるタイヤも3セットに限定されるため、タイヤは、ダブルスティント、つまり燃料タンク2つ分、あるいは約1.5時間の走行時間に相当する耐久性が必要になる。

アンドレアス・ザイドル氏は、「我々のパートナーであるミシュランの協力によって、ダブルスティントを走行してもレースの最後までペースを維持できるように十分な準備をしています。

6時間も24時間も、全てのレースで今年もゴールスプリントが予想されます。結果、温度が下がるル・マンの夜間には、1セットのタイヤで4スティントを走ることも可能となっています」と説明した。

WEC – 技術的先駆者のための理想的な機会

WECは、クラス1ル・マン・プロトタイプ(LMP1)の独自のレギュレーションによって、同クラスへの挑戦を続けるポルシェにとって理想的なプラットフォームになっている。

そしてこのレギュレーションが、ポルシェの2014年のモータースポーツへのカムバックを後押しした。

このレギュレーションはエンジニアに異なるドライビングコンセプトの導入に対して大きな自由を与える一方で、ハイブリッド、高効率のエンジンライトサイジング、および一貫した軽量設計の使用などの先進テクノロジーを要求する。

その結果、WECはポルシェが市販スポーツカーのためのイノベーションを開発およびテストするための完璧な舞台を提供することになった。

さて最後に、ポルシェ919ハイブリッドのステアリングを握るドライバー達だが、まず1号車は、ニール・ジャニ(33歳、スイス)/アンドレ・ロッテラー(35歳、ドイツ)/ニック・タンディ(32歳、イギリス)組がステアリングを握る。

ちなみにジャニは、現WEC世界チャンピオンで2016年のル・マン優勝者でもある。

ロッテラーは、アウディで2012年の世界チャンピオンを獲得し、ル・マンにおける3回の総合優勝経験がある。またタンディは、ポルシェの2015年のル・マン優勝のメンバーだった。

対して2号車は、2015年世界チャンピオンのティモ・ベルンハルト(36歳、ドイツ)/アール・バンバー(26歳、ニュージーランド)/ブレンドン・ハートレー(27歳、ニュージーランド)組となっている。

バンバーは2015年のル・マンでタンディとともに優勝を飾った。またハートレーは同じ年にベルンハルトとともに世界耐久チャンピオンになっている。