最高速度120km/h、新たな高速走行の時代

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新東名・東北道で、3月1日朝10時~

1月28日と1月30日の両日、静岡県警と岩手県警が、高速道路の本線一部区間で最高速度を120km/hとする新たな試行を公表した。

120km/h試行区間は、静岡県内の新東名(新静岡IC~森掛川IC)上下線約50キロと、岩手県内の東北道(花巻南IC~盛岡南IC)上下線約30kmの2区間。110km/h試行の区間で、最高速度を引き上げる。

2月いっぱいを周知期間として、3月1日から1年間をめどに実施する。110km/h試行と同様に結果を分析して次の規制緩和に繋げる予定だ。( 取材・撮影=中島みなみ / 中島南事務所 )

今回の120km/h試行は、110km/hにはない社会的なインパクトがある。100km/hから10km/h刻みの段階的な引き上げではあるが、高速道路の最高速度引き上げを加速させようとする姿勢が鮮明だ。

速度規制の見直しは、2014年当時の国家公安委員長だった古屋圭司代議士が「(交通取締りは)取締まりのための取り締まりになっている傾向がある。

事故の抑止につながる、取り締まられた側も納得できる取り締まりをしなければならない」と、閣議後会見で発言したことがきっかけだ。120km/hまで最高速度が引き上げられると、それがいよいよ現実になる。

交通量が少なく、運転者が他の車両の影響を受けずに速度を決定できる場合の試行1年と、施行前1年の比較(警察庁まとめ) 100km/h→110km/hでは、実勢速度は上昇したが、影響は多くないという見方だ。
交通量が少なく、運転者が他の車両の影響を受けずに速度を決定できる場合の試行1年と、施行前1年の比較(警察庁まとめ) 100km/h→110km/hでは、実勢速度は上昇したが、影響は多くないという見方だ。

警察庁がまとめた110km/h試行区間の実勢速度は、最もスピードの高い新東名下り線で122.6km/h、最も遅い東北道上りで112.0km/hだった(※表1参照)。

実勢速度は交通量が少なく、運転者が自由にスピードを決定できる交通状態にある場合で、大型トラックなど80km/h規制の車両の混在率も一定以下であることを条件にして算出されている。交通の流れに乗って走っているのにスピード違反で摘発されるということはほぼなくなるのだ。

一方、大型トラックやトレーラーの最高速度は、車重が重く制動距離が長く、全体と比較した場合の死亡事故率の高さが課題となり、今のところ見直しの対象にはなっていない。

120km/h試行になると、その低速車との速度差が40km/hに拡大する。また、小排気量の二輪車は、法的には120km/h走行は可能だが、巡航や追越加速は厳しい。最高速度120km/hは、スピード違反を気にしなくてもいいかわりに、一般道とは違った高速道路の走り方を、運転者が意識する必要がある。

「最高速度の引き上げは、120km/hで走らなければならない、というものではない。車両のコンディションや自分の運転特性を考えて正しい交通ルールでマナーを守って走ってほしい」(静岡県警・高速道路交通警察隊)

全国837kmで、最高速度引き上げの可能性

今後、最高速度の引き上げは、どんな区間で検討されているのか。警察庁は全国の高速道路13路線19区間の可能性を上げている(※表2参照)。

連続した区間では、試行区間を含む東北道(平泉前沢IC~盛岡南IC)73.3km、同新東名(浜松いなさJCT~御殿場JCT)144.6km、常磐道(三郷TB~日立南太田IC)101.3kmが目を引く。

新東名の120km/h試行では、前提条件は2点あった。
・高速道路のいわゆる設計速度が120km/h以上であること
・試行区間の約60%で6車線化(片側3車線)され、速度差がある車両の交錯が少ない

6車線あれば、速度差が開いても左端の第1車線により低速な車両の通行帯を作ることができるので、運転者にとっては使い勝手がいい。

ただ、同じ120km/h引上げを行う東北道は、試行区間すべてが4車線。車線は少ないが、この区間は死傷事故率が飛びぬけて低い(※表3参照)。試行後は注目が集まり、取締りも厳しくなったことから死傷事故率が下がった区間もある。

交通量が少なく、運転者が他の車両の影響を受けずに速度を決定できる場合の試行1年と、施行前1年の比較。参考:東日本高速全線の2018年中の死傷事故率=3.65(速報値)、同首都高速全線=10.9件(2018年)
交通量が少なく、運転者が他の車両の影響を受けずに速度を決定できる場合の試行1年と、施行前1年の比較。参考:東日本高速全線の2018年中の死傷事故率=3.65(速報値)、同首都高速全線=10.9件(2018年)

最高速度引き上げを指導する警察庁は「120km/h試行でも、まず死傷事故率をみていきたい」(高速道路管理室)と言う。少ない人身事故を増やさないことは必須条件だ。

比較のために一例をあげると2018年の東日本高速全線の死傷事故率は3.65件/億台キロ。首都高速は10.9件/億台キロ。最高速度だけでなく、事故防止には複数の視点が必要だ。

死傷事故率は施行前後で大きな変化を見せていないが、今回の110km/h↓120km/h試行では、引き上げ区間の総延長は約80kmと変わらなかった。

全国の高速道路は約8800kmある。「110km/h引上げのノウハウがある区間で、120km/hに引き上げた状態をみることになった」と、静岡県警交通規制課は慎重だ。引上げを指導する警察庁も「念頭にあるのは、設計速度が120km/hの道路。それ以外の道路は今のところ俎上にありません」と、高速道路100km/hの“常識”は、すぐには変わりそうもない。

しかし、静岡県警と岩手県警が、110km/h試行1か月と6か月で実施したアンケートでは《他の路線・他の区間にも広げていくべき》という賛成が《元の100km/hに戻すべき》という反対を上回った。賛意は新東名で62.8%(638人)、東北道で62.7%(376人)。反対は新東名で17.6%(179人)、東北道で16.5%(99人)だった。
120km/h試行で、この支持率がどう変わるか。こうした動向も最高速度見直しの指標となる。

取締りは、さらに強化

110km/h試行で、静岡県警は高速道路交通警察隊に加えて、交通機動隊のパトカーなどによる路上監視を強化。航空隊のヘリコプターを動員し空陸連携で、車間距離の詰め過ぎや追越車線を走り続ける通行帯違反を重点的に取り締まった。

最高速度の引き上げに伴う新たな事故の防止や、最高速度に慣れない車両へのあおり運転などを防ぐためだ。監視・取締りの強化は岩手県警でも同様に強化されている。両県警は120km/h試行でも、監視や取締りを引き続き強化する方針だ。

高速走行で半世紀以上にわたって続いた最高速度100km/hの壁は、崩れつつある。

中島みなみ
(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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